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楽器の位相について(7) 〜アンプの逆相ついて〜 [技術]

今回はアンプの逆相ついてについてです。

ここまで、お付き合いしていただいた読者の皆様は、位相が重要な音作りの一つであることを感じていただいていると思います。現在の状態が正相なのか、逆相なのか、基準を持っていた方が良いですよね。
基準を持つ上で、困る存在があります。チャンネルによって異なる位相を持つアンプです。チャンネル1は正相、チャンネル2は逆相、チャンネル3は正相、など、、、、チャンネル間で位相が異なる場合が多々あります。位相を統一したい場合には、位相を逆相にするための機器が必要となります。チャンネル切り替えとセットで、位相を変える機器のコントロールが必要となるわけです。このように困った状況を解決するために、ARC-4 (フリーザトーン製のスイッチャー)を開発し発売しました。売り込みっぽくなってしまうようで恐縮ですが、ARC-4は位相切り替えをプリセットごとに設定できるようになっています。アンプの位相が変わった場合でも、逆相機能をONにして位相を反転させ、それをプリセット毎に覚えさせることができます。おそらく、位相をコントロールできる機能を持つスイッチャーは、世界でもこのARC-4だけだと思います。位相のコントロールは非常に重要で音作りに有効なので、 ARC-4から位相切替機能を抜き出した製品を現在開発中です。できるだけ小型にして使いやすい製品に仕上げたいと思っています。

話が少しそれてしまいましたので、アンプの位相の話に戻ります。位相を説明する上で、真空管(チューブ)アンプを例に説明するのがわかりやすいと思いましたので、ネット上にアップされていた、あるチューブアンプの回路図を元に、なぜ正相と逆相のチャンネルが生まれてしまうのか、探ってみたいと思います。


まず、前回のブログでご紹介しました、真空管の回路を思い出してください。信号を取り出す場所によって、信号の位相が変わります。同位相(正相)で出力する場合と、逆相で出力する場合がありました。
上側の回路③は、主にインピーダンスを下げる回路です。下の回路④は主にゲインを上げるために使われる回路です。

IMG_2522.jpg

では、具体的にアンプの回路を見て見ましょう。パッとみると様々なパーツが接続されていますので、難しそうに見えますが、実は簡単です(笑)22, 23歳くらいの時だったと思います。回路の勉強をしている際、先輩にこう言われました。
「コンデンサーは、信号の周波数によってインピーダンス(抵抗)が変わる性質のものだから、コンデンサーの記号を抵抗の記号に置き換えて、抵抗として回路を書き直してみると理解しやすいよ。」
そのあと、
「コンデンサーを抵抗に書き換えると、ほとんど抵抗ばかりの回路になってしまうから、あとは直列に繋がっている抵抗や並列に繋がっている抵抗は、1本にまとめてしまうと、回路としてはものすごくシンプルなものになる。」
と教わりました。電気回路を分かりやすくするために、有効なアドバイスだったと思います。もしご興味がある方は、是非やってみてください。

アンプ回路.jpg

(上の図をクリックすると大きなサイズの回路図を見る事ができます)
ざっと、回路についてご説明いたします。回路図の左側が信号の入力です。電気回路は、左側から右側に信号が流れるように回路が書かれています。Inputと書かれたジャックのマークにギターからの信号が入力され、その信号が回路に流れて行きます。
・クリーンチャンネルの信号は、「黄緑の矢印」
・ドライブチャンネルの信号は、「紫の矢印」
に分けて信号の流れを示しました。途中で信号が分かれて、異なるそれぞれの回路を通過します。その後、信号は合流します。
クリーンチャンネル側から、幾つのチューブ回路を通過したか見て行きましょう。
入力信号 > 逆① > 逆② > 逆⑤の手前で合流
逆相の回路を2つ通過しましたので、正相の状態で、信号が合流するポイントへ入ります。

次にドライブチャンネル側を見て行きます。
入力信号 > 逆① > 逆③ > 逆④ > 逆⑤の手前で合流
逆相の回路を3つ通過しましたので、逆相の状態で、信号が合流するポイントへ入ります。
ドライブチャンネルは、信号を歪ませるために、通過するチューブ回路がクリーン側より1つ多くなっています。このため逆相となる回路を奇数回通過することになり、逆相となって合流ポイントに入ることになったわけです。
結果的にこの回路では、クリーンチャンネルとドライブチャンネルは、位相が異なって出力されます。

楽器のアンプに頻繁に使用される代表的なプリ管(プリチューブ)は、12AX7(ECC83)です。この中には2回路分入っています。アンプの設計者は、サウンドの事だけでなく、できる限り効率良く、合理的にアンプを設計したいと考えます。真空管の数を減らすことができれば、電源トランスの容量を下げることができるため、トランスのサイズや重量を小さくすることができます。またアンプのスペースも小さくすることができます。コスト削減に直接、繋がります。逆相のチャンネルを正相に戻すためには、チューブ回路を1つ追加する必要がありますので、合理化とは逆の方向に進むことになります。私は、これが1つのネックになっていると考えています。
また、もう一つ大きな要素はサウンドです。私も以前、チューブアンプの設計をしていたので分かりますが、1つの真空管が増えることによって、サウンドキャラクターが想像以上に変化します。真空管の数、回路の数が増えれば増えるほど、音の「腰」「芯の強さ」が弱まり、「音が遠く」なるように感じました。もちろん比較して見ないと分からないくらいの差の場合もありましたが、設計者としてはより良いサウンドを提供したいと思っているわけです。位相のことはちょっと横に置いておいて、アンプ自体のサウンドを重視!という気持ちが、痛いほど分かります。私のようなシステム設計をする立場の技術者としては、アンプ設計者の気持ちを汲み取り、弱点は補い、より良いサウンドシステムを組み上げる事が重要だと思っています。私が位相切替機能付きのARC-4を開発したり、位相切替機器の開発をしているのも、ご理解いただけるのではないかと思います。

チャンネル毎に位相が異なるから、使えないとか否定的な方向では無く、気に入ったサウンドが出るアンプの弱点も受け入れて、その弱点を補いながら自分独自のシステムを構築していくのも楽しい事だと思います。このブログを参考にしていただけると幸いです。

位相のシリーズは、今回で一旦終了です。また、新たな情報が出てきましたら、ご案内したいと思います。

次回からは、私がイギリス在住の技術者Pete Cornishの元で修行していた時に書いていた日記をご紹介しようと思います。すでに18年近く前の話ですが、これから技術者を目指すための方にもお役に立つ内容だと思いますので、是非楽しみにしていてください。

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コメント 3

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音波くらいの周波数なら少しリスニングポイントがずれるだけでも位相が変わると思いますが、それでも影響あるのでしょうか?
by お名前(必須) (2020-04-19 10:54) 

林 幸宏

コメントありがとうございます。リスニングポイントが変われば、位相は変化しますので影響があります。コンサートホールで、席が変われば音の聞こえ方が変わるのと同じです。
このブログでお話ししてきた内容は、話をシンプルにするために、あくまで同じ位置で聞いたとき、もしくは電気的に信号を捉えた時に限定してお話ししています。
よろしくお願い致します。

by 林 幸宏 (2020-04-20 16:20) 

お名前(必須)

ありがとうございました。音はごく限られた条件以外では定常波では無く進行波である為、節の位置も時々刻々と変わる事や、各楽器から音が出るタイミングのズレによる位相遅延や周波数の違いもあるので、楽器同士の位相のずれは関係ないかと思っていました。
by お名前(必須) (2020-04-20 18:41) 

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