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イギリス滞在記(4) [音楽]

8月13日(火)

ピートからダイオードチェッカーをもらった。かわりにピートには半田吸い取り器のセットをあげることになっている。

今日はケーブルの製作をじっくりと習った。半田付け作業がメインである。半田付けはスムースでストレスがなくというのが基本だとのこと。まずワイヤのストリップが難しい。いままで加工したことがない種類のケーブル。2芯シールド線である。外皮がラバーで、耐熱になっていて、その内部が黒コットン、紙、シールド線となっていてさらに内部はいろいろ入っている。さらに内部の線材は、ワイヤのように弾力がある。むずかしー!
なんとかすべて半田付けが終わった。特にシールド線の処理が難しい。処理したあと、一本の線のように見えるように処理するのがよいとのこと。外皮を少しめくりその中からシールド線を解き、いったん後ろにまわして一本に束ねる。
またシールド線を途中で断線したまま使用しようとすると、シールド線が回りにタッチしたりして、ノイズを発する可能性があると言っていた。ピートが使用しているプラグはノイトリックが多いのだが、留意点がいくつかあった。まず半田付けするときは、予備半田を必ずすること。半田付けをした後、ストレスがかかってないか、ストレートに付いているかを確認する。またシールド線とホットの間が近くならないようにすることも大事とのこと。空気が一番良い、絶縁材だと言っていた。そりゃそうだ。チップから半田付けし、次にシールドを半田付けする。
ヒートシュリンクのときは、必ずセンターからシュリンクをはじめ、外側にシュリンクしないと中央に空気が入ってしまう可能性があるからとのこと。

ポールマッカートニーのルーティングユニットは1989年に作られ1992年に改造された。入力回路に簿いゲインボリュームがあって、これをロックタイプに変更した。ロックタイプのコレットは別ピースであった。
ボリュームを使うときは、必ず同じロットを使用し、2 INPUT等、セットの場合は、かならず隣り合ったものを使用すること。これで精度が上がる。
ちなみにリニアのボリュームはセンター位置が6dBダウンでLOGテーパの物はセンターが大体20dBから15dBダウンである。

基板が大きくなると機材がゆれたとき、曲がりを吸収できない。また基板自体が半田付けして曲がってしまうので、ピートは必ず小さな基板で組み上げるようにしている。各ケーブルはかならずループ(たるみ)をつくり振動に耐えうるように考えている。
現在は、ボリュームのターミナルやヒューズホルダーにもスリーブをつけるようにしている。これは絶縁用。
ラック内部の配線材に使用しているケーブルの外皮は、PBCインソレーションといわれているもので、いくつか問題がある。本当は、ラバーのものが良いらしいが、高価なので内部の配線には、このPBCタイプを使用しているとのこと。欠点としては下記の通り。

1. 高温で溶ける。(ヒートシュリンクは使用できない)
2. 低温で硬くなる。
3. 経年変化で硬くなっている時がある。

cable.jpg
こちらがポールマッカートニー向けに製作したワイヤレスケーブル



8月14日(水)

今日は、ポールマッカートニーのシステムを仕上げる日。ユニットやワイヤレスのテストを行なった。自分が作ったワイヤレス用のケーブルをすべてテスターと音出しでチェック。問題ないことを確認。ワイヤレスも外に出て、約50m届くことを確認。すべての入力にオシレーターからの信号を入れて、エフェクトON/OFF時や入力によるレベルの違いを調整し、ユニティに設定。必ずオシレーターからの信号をレベル計で測定して確認し、さらに音を出して再確認すること!ワイヤレスのチェック時もケーブルをゆすって問題がないか確認した。
ポールマッカートニーの使用するワイヤレスはSURE製で非常にすばらしいものである。送信機は、ダイキャストでしっかりしていて、9Vの電池を使用せず単3乾電2本での駆動になっている。ピートは、すばらしい設計だと言っていた。電池は、セルがすくない方が、インピーダンスが低いので、電流を取り出せる能力が大きい。9V電池は、いくつもの小さなセルがシリーズに入っていて、インピーダンスが高いそうだ。単3電池は、セルが2個くらいなのでインピーダンスが非常に低く良いそうだが、エフェクターでは9Vが標準になってしまっているので、どうしようもないといっていた。
送信機の電源をOn/Offしてもノイズがまったく出ないのですばらしいと言ったら、プロフェッショナルなワイヤレスはノイズが出ないのだと。そらからSUREのワイヤレスは、送信機からのシグナルが低くなっても、変なノイズを出さないで、ミュートするようになっているらしい。

ワイヤレスが故障したり、ギターを交換する必要がステージでは、いくらでもある。よって、すぐにギターを取り替えて演奏を続けられるようにする必要がある。ピートのやっている方法は、スイッチでA/B切り替えを行い、すぐにギターをスイッチできる方法と、フロントパネルにギターインプットを配置し、ジャックのスイッチを使用して、プラグを指すと直ちに切り替わるようにする方法。以上の2つがある。

ワイヤレスのレベルとギター(ケーブル)のレベルは、必ず同じレベルである必要がある。ワイヤレスのシステムがギターを強く弾いてもひずまないようにレベルを設定し、その後それにケーブル側のギターレベルを合わせる。

LEADという表記は、混乱のもとになるので、イギリスでは使わないらしい。ローディが混乱する可能性があるとのこと。LEADには、いろんな意味があるからだそうだ。ポールのラックには、DISTORTIONと表記されていた。SUTUDIO22ブギーのアンプを使用しているそうだ。

ラックの内容は、ギターインプットとベースインプットがあって、切り替えることができる。ギター側には、CE-2のラックマウントタイプとSD-1のラックマウントタイプ。今回は、P-2 FUZZのラックマウント版を追加した。

引き出しには、ピックやおそらくファンから投げられたベアのぬいぐるみ。ツアー用のセットリスト。それから驚くべきことにポールの曲の詩集が特別にMPL(ポールの会社)によって作成されていて、その冊子が入っていた。

ポールのストロボチューナーの入力ジャックが壊れていたので、テストだといわれ、どうやったら、壊れにくいように改造できるか?とピートに言われた。機構的にまずい設計で、フロントのジャック(モールド)2本だけで基板がとまっていた。今日は時間がなくなったので、明日にすることになった。

入力インピーダンスの重要性について習った。ピートがなぜTrue Bypassにしないかのレクチャーを受けた。エフェクターが2つや3つであれば、True Bypassもいいだろう。しかし、それ以上になったとき、ケーブルの長さの総合計は、相当なものになり、信号のロスは大きなものになる。これを考えないといけない。またTrue Bypassされた次につながるエフェクターがもしクライベイビーのように入力インピーダンスが低いものであれば、信号がどうなるか容易に想像がつく。通常は後ろに何がつながれるか、想定できないので、何がつながれても問題ないようにするのが一番良い。

ピートは、A/B比較できるダイキャストボックスをみせてくれた。これに、ピートのLINER BOOSTをつなぎ、音の比較を行なった。使用したアンプがJC120で入力インピーダンスが低いので、とくにLINER BOOSTを使用したときの効果を認識できた。コピーできるように、写真と回路図をとらせてもらった。また、ボリュームを絞ったときの高域の劣化を確認できた。パラボックスを間にいれて、バリアブル抵抗を途中につなぎ、抵抗値を変えながらそのロスがどれくらいあるかを耳で確認できた。
重要なポイントは、高域が失われると、これを補正するためにアンプのトレブルもどんどんあがり、結果的にノイズが多いサウンドになってしまうということであった。ノイズを減らすためには、アンプでトレブルを上げる必要がないように、ギターの信号のロスを極力減らすということが重要とのことであった。
LINER BOOSTの入力インピーダンスは1Mである。多くのチューブアンプの入力インピーダンスが1MΩなので、それにあわせたらしい。それがもっともナチュラルとのこと。
A/B比較用ボックスの製作用にスイッチを売ってもらった。価格は、GBP5.50。

入力インピーダンスを計測する方法を聞いた。ピートはそれを簡易化するための、計測器をカスタムで作っていた。ソースと測定する機材の間に可変抵抗を入れて、ちょうど-6dB下がる抵抗値をさがす。すると分圧比で「入力インピーダンス=可変抵抗値」がもとまる。ただ、FUZZのような信号をひずませコンプレスするタイプのものは、出力レベルが正確にでてこないので、入力側で測定するしかないが、入力インピーダンスが10MΩくらいあるプローブでモニターしないと正確に測定できない。日本に帰ったら、ステップタイプの可変抵抗器がいくらくらいか調べる。

JVCで私が設計していたデジタルアンプの話になって、スイッチング電源の話になった。イギリスではグランドが必ずあって、接地されているが日本はどうなっているのだという話だった。シャーシの電位が定まらないので、非常に問題だと言っていた。ノイズは、グランドに戻すものであるが、フローティングされていたら、シャーシが汚いままではないか?と不思議がっていた。たしかにその通り。

話の流れで、スイッチング電源を用いたラックエフェクターとハイゲインのエフェクターをつないだときに、すごいノイズが出たという話をした。ピートの経験では、あるフランジャーの内部クロックが垂れ流しだったため、そのあとにエコープレックスをつないだら、クロックの低域分周された信号がノイズとして出てきたと言っていた。

ポールマッカートニーのラックの仕事に戻る。システムの接続に使われているマルチコアのピンが曲がっていた。ダミープラグ(保護用)を付けないまま、使用していたようだ。ポールのシステムは、ペダルが2台つながるようになっていて、本人用とローディ用のペダルがある。それぞれ、チューナーがあり、スイッチもリンクして動作するようになっているので、1つのスイッチあたり4本の線が必要で、多ピンのケーブルが必要になってしまったと言っていた。最近はそれを避けるために、On/Off/Remoteのスイッチをつけるようにしたとのこと。

MIDIペダルの話。モーメンタリースイッチはITWのスイッチがベストらしい。クーラシェイカーのMIDIシステムは、このスイッチを使用しているらしい。壊すのが難しいくらい丈夫らしい。また、ピートはMIDIペダルもカスタムでケースをおこすので、スイッチとディスプレイとCPUボードが別のピースになっているのが有難いらしい。

今日は、内容の濃い一日だった!

(つづく)
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イギリス滞在記(3) [音楽]

8月11日(日)

朝から洗濯!途中で動かなくなって、どうしたのかと思ったら、プログラムスイッチが途中で動いているではないか?戻したがまた止まった。ドアが開かない!止まってから数分は、保護のためすぐにドアが開かないようになっているらしい。ふー。ぜんぜん、日本と違うぞ。

今日は、ピートの家の庭の手入れを手伝いに行った。ラズベリーの手入れだ。毎年夏に収穫して、古い枝は捨てて新しい枝だけにして、枝を紐でつないで固定しているそうだ。たわいもないことを話しながら、午前中の作業を終え、昼食をともにした。リンダのお母さんが来ていて挨拶した。すごく穏やかなソフトな感じの方で、しゃべり方が弱弱しかった。ひじを骨折したそうで、手術のあとが痛々しかった。
昼食は本当においしかった。野菜は無農薬野菜だそうで、全部おいしかった。もちろんパンとハム、チーズ、サラダって感じの内容だが。一緒に出てきたスパークリング・アップルジュースも最高においしかった!ピートも言っていたが、今日のランチは格別うまかったと言っていた。「多分、Yukiが来たからじゃないかな?毎週くるか?」みたいな事を言って笑った。
(Yukiというのは私の海外での呼び名。欧米人はユキヒロと発音するのが難しいようで「ウキイロ」に近い発音になってしまうことからユキになりました)

ピートの家はバスルームが2つあって、一つはピートが作り直してるんだといって見せてくれた。イギリスのお父さんは、家の修理や工事を自分でするらしい。またバスルームも広いんだこれが!それから庭にはたくさんの植物が植えられていて、ピーチやアップルの木も庭に植えられていた。昔この家は、このあたりの地主さんが所有していたものらしく、昔は馬を飼っていたところだそうだ。リンダはなるべく手をいれて変えたいらしい。それからリビングにはピートの作ったオーディオセットがあって、スピーカーもクロスオーバーもプリアンプも全部ピートが自分で作っていた。とくにプリアンプはかっこよかった。今度写真を撮ってこよう。

帰りの車の中で、音作りをどのようにやっているの?とピートに聞いてみた。必ず新しくつくるサーキットは、音に変化がないかどうか確認して、注意深く設計しているとのことだ。特に音作りをしているわけではないらしい。外部からノイズを入れないように、ノイズを出さないように注意深く設計しているそうだ。特にギターの微小信号をノイズなく増幅するのは難しいが、私はそれを達成したと話してくれた。ノイズのないクリアな音がピートの音質といえそうだ。
それから、前回買うとピートに話していたアンプやエフェクターを送るのにパッキングサービスが必要だと言われた。ピートではパッキングが難しいとの事なので、送るときは近鉄に連絡して送るのがいいかもしれない。



8月12日(月)

朝、レンタカーやさんに行って、日産MICRAをとりあえず7週間レンタルした。受付のインド人ぽい、おばさんは、ライセンスとかエレクトリックエンジニアのスペルがわからなくて、ピートに聞いていたのが微笑ましかった。入ったばかりの人なのかもしれない。7週間で約15万円。一応こちらが想定していた価格であった。250ポンドはデポジットとして別に払った。綺麗なまま戻したら返してくれるそうだ。地図も一緒に購入した。

車を無事レンタルしたあと、ピートのあとについて車を運転した。まずは買い物にTESCOへ。
でかいスーパーマーケットだ。買い物を済ませたあとは、ピートのワークショップ(工房)へ。
今日はP-2FUZZのラックマウントタイプの作り方を見せてくれた。

1. まず電源周りから作り始める。トロイダルタイプの電源トランスの配線は、ハムの調整のため回す可能性があるので少し長めにして配線しておく。

2. フロントパネルの接合を確実なものにするため、かならずヘアラインのメッキも削って取る。

3. ACコードのグランドピンとリアパネル、フロントパネルの抵抗値が1オーム以下であることを確認する。

4. 電源のN/H/Gすべての組み合わせで絶縁を確認する。もちろんH/N間はトランスの巻き線がわなので抵抗値のみ確認する。
(日本のPSE対応のための絶縁耐圧試験に近い作業です)

5. 次にAC電源を投入し、スライダックをゆっくりとあげていく。想定しているACの上限まで電源電圧を上げトランスの2次側に入っている、コンデンサの耐圧を越えていないか再確認する。トランスのばらつきを考慮したチェックだと思う。
(カスタム品ならではの細やかなテストをピートは実施しています。)

6. ピートは、非常にノイズの少ない電源がほしいときは、ダブルレギュレーションの方法を取っている。例えば、最初に32Vや25Vくらいの電源を用意し、その後その電源から9Vを作るという方法だ。

7. 配線が終わったら音出しチェックを行い、必ず電源トランスを回転させハムノイズが最小であることを確認する。

今日はポールマッカートニーのワイヤレス用カスタムケーブルの製作を始めた。添付されていたケーブルは、新品なのにすでに酸化して、シールド側が緑に腐食していた。ピートから徹底的に製作方法、半田の方法を聞いた。半田付けにどれだけ時間がかかるんだぁってくらいの内容だ!ピートはちゃっちゃ作っているので、これも慣れなのだろう。それにしてもピートが用意したケーブルは製作しにくい。日本製のケーブルは作業しやすい!

特に注意されたのは、配線してケーブルとプラグが必ず直線になっていないといけないということ。ケーブルやワイヤにストレスをかけてしまうからとのこと。それから空気が最高の絶縁だから、他のケーブルと離して半田つけする事!と教わった。それからもっと大事なことは、スムースにハンダ作業!

(つづく)
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イギリス滞在記(2) [音楽]

8月9日(金)

今日は、ピートのバンドのベーシストGUSさんに会った。dpと書いてあるベースを4本も持ってきて見せてくれた。すべて5弦ベースだった。ベースの簡易システムをピートが製作することになっていて、その打ち合わせだった。一年間くらいお金がなくて頼めなかったらしい。GUSさんの持ってきたアンプは、リンダが半田付けしたキットアンプのようだった。
ポールマッカートニー用にP-2 FUZZのラックマウント版を製作していたのを見せてもらった。

今日の話の中で私が重要だと感じたポイントは、

1. フロントパネルとリアパネルの接合を良くするために、穴をあけてリベットを打つ。フロントパネルは特にメッキがかかっているので、特別に作った専用ドライバー(ピートは必要な工具を自作しています)で傷をつけ、しっかりと接合するように工夫する。

2. 以前のモデルは、BOSS/SD-1を組み込んでいたが、この時の入力回路はトランスインプット(入力回路にシグナル用のトランスを使ったタイプ)であった。トランスは物理的にセンタータップを設けているために、CMRRが5,60dBが精々であった。インプット回路を変更し、CMRRを調整できるようにしたら約100dBのリジェクション効果を得ることができた。

3. トランスをインプットとアウトプット両方に使用すると、f特が劣化し理想的ではない。

4. LEDの明るさと色は必ず確認してから装着する。同じに並ぶラック等があったら、場所や色、明るさをそろえる。ピートはLEDテスターを使って全てのLEDを確認していた。

5. メタルワークは、振動によるびびり(鳴き)を抑えるために、必ずシール(シリコン)すること。ねじも同様。

6. ピートのスタビライザーは、オートスライダックが入っている。モータードライブになっているため、電気的ノイズは全く出ない。サーボアンプが制御用に入っている。

7. ロジャーウォータズのケーブルが断線していることがあった。完全に断線していたので、どこなのか探したところ、ケーブルの中の途中でシールド側が完全に切れていた。コットン(シールド線の絶縁材)が汗を吸って、シールド線を腐食したのが、原因とのこと。プレイヤーの汗が非常に問題になることがあるとの事。汗が付く可能性があるところは、半田上げしてあるケーブルが望ましい。裸の銅線に汗が付くと酸化してしまうので、問題が出ることがある。

8. リレーは、少し高い電圧でON/OFFさせたほうが反応が早く良い。

夜は映画に連れて行ってもらった。リンダがわざわざ予約してくれて“GOLD MEMBER”というコメディものを見た。めちゃめちゃ面白かった。日本でもこれは見てみよう。



8月10日(土)

今日は休みかと思ったら、仕事だった。ピートは土曜も働くのね。働き者!今日は、いろいろ工具について話してくれた。ネジの種類やドライバーなど。ものすごい種類の規格があって、とても覚えられる量ではなかった。ネジは、締めたとき必ずナットから出るようにし、ナットから最低1.5溝分出ていると信頼性があると教えてもらった。
ピートは、抵抗を通販会社から購入しており、すごく良い抵抗だそうだ。

マスターオシレーターの話になった。いくつもチューナーが存在している場合は、マスターの440Hzオシレーターを作ってそれで全てをキャリブレートしているそうだ。ペダルボードのチューナーもすべてそれで調整して出荷しているそうだ。これは必要だ!

朝、LINER BOOSTが故障したことがある事をピートに伝えた。入力回路に使用しているICは、入力回路がFETタイプで保護用のダイオードも入っていないので、アンプや他のエフェクターの電源が入っている状態で接続すると、入力回路が破壊するのだろうとピートは推測した。
イギリスやアメリカは必ずアースを取っているので、このような事故は、いままで起こった事がないと言っているが、日本では状況が違うので、日本向けに変更しないといけないな、基板もそれにあわせて変更しようということになった。(後日、検討を重ね最終的に変更はしませんでした)

ピートからすると、接地されていない機材がどういう振る舞いをするのか想像がつかないと言っていた。作業場を作る時は、アースを落としたほうがよいとアドバイスを受けた。

入力回路を検討するにあたって、ローランドの回路図を見せてくれた。(イギリスでは有償ですが回路図提供のサービスが一般的に行われているそうです)SDEシリーズは、入力回路にダイオードと抵抗が入っていて、電源電圧以上に振れないようにダイオードでクランプし、入力とシリーズに電流制限抵抗を入れてあった。おそらくローランドも同じような問題を抱えていたのではないか?と言っていた。FETインプットタイプのICを使用するときは要注意だ。

(つづく)
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イギリス滞在記(1) [音楽]

2002年、2ヶ月間ほどイギリスに滞在しました。ピート・コーニッシュ氏とのプロジェクトと言うことで、胸の高鳴りと少しの不安を抱えながら、イギリスに向かったのを覚えています。なぜ、ピート・コーニッシュ氏の元に行くことになったのか、少し流れをお話ししたいと思います。

ピート・コーニッシュ氏は、1970年代からカスタムペダルボードを製作したりラックシステムを構築したり、機材をカスタマイズしたり、多くのミュージシャンの要望に応えてきました。特にイギリスにおいて大きな功績を残しています。ポールマッカートニーやスティング、デイヴ・ギルモア、ジミー・ペイジ、エリック・クラプトン、ブライアン・メイなど多くの著名人の機材に関わってきました。私は1989年にピート・コーニッシュ氏の存在を知り、いつか直接会って見たいと思っていました。

1998年頃、ローリングストーンズのテックをしていた方と知り合いになり、それがきっかけでピート・コーニッシュ氏の連絡先を手に入れることができました。1989年に手に入れたピートコーニッシュ氏の住所・電話番号はすでに変わっていて、連絡を取ることができないでいました。連絡先が分かり、すぐに電話をしてみました。初めて電話した時のことを覚えています。以前、イギリス人の方と数ヶ月一緒に仕事をした経験があったので、イギリス英語には慣れていたつもりでしたが、電話だと全然聞き取れず、たまりかねたピートが、FAXでやり取りしようと提案してくれました(汗)それからFAXでのやり取りが始まります。
当時は、ギターテックやベーステックとして、主にレコーディング現場での仕事をしていた私は、ピートにエフェクターやパラボックスなどを作ってもらい仕事で使用していました。そのクオリティーの高さに本当に驚かされ、自分もこのような製品が作れるようになりたいと思ったことをよく覚えています。

当時、ギターテックの仕事の他に、機器の電気設計やカスタム品製作、システム設計なども行なっていましたが、一人前のプロオーディオ機器の設計者になりたいと言う気持ちが徐々に強くなり、テックの仕事もやめる決意をし、中途採用で日本ビクターに入社します。中途採用試験のために半年間、死に物狂いで勉強しました。大学受験の時より勉強したと思います(笑)

私が日本ビクターに入社し働き始めても、ピートとのFAXのやり取りは定期的に行いました。電気回路の話をFAXでやり取りです。アナログ回路の技術はピートにはかないませんでしたが、デジタル関係のことは私がピートに教える立場でした。この頃になるとE-mailもインターネットも普及してきていて、徐々にFAXからメールに移行して行きましたが、2001年まではFAXも併用して使っていました。図や回路を書く時は、FAXの方が簡単で早かったのです。

2002年に転機が訪れました。ピートからイギリスに来ないか?とお誘いがあったのです。以前から、私がギターやベースのシステム構築に興味があることをピートは知っていましたので、それを汲んでのお誘いでした。当時、息子が2歳でしたので非常に迷いましたが、これを逃したらもうイギリスに行くチャンスは無いだろうと思い、決心してピートの元に行くことになりました。
まずは、目的が無いまま来ても意味がないから、一緒にラックシステムを製作しようと提案がありました。
ピートは、「一緒にシステムを作って、君が何ができるか分かった後、その後のことを相談しよう。」と私に言いました。確かにその通りです。研修生になるような気分でピートの元に行くことになったのです。

イギリスでは、毎日その日の出来事や、ピートに習ったことを日記につけていました。読み返してみて、補足が必要と思った箇所は加筆しています。またピートからこれは他の人に教えてはダメだよ(笑)と言われたことは、怒られるといけないので、削除していますことをご了承ください。
少しでもギターやベースのシステム、カスタム品について興味を持っていただけると幸いです。

約2ヶ月分の日記ですので、結構長いです(笑)
それでは、スタートしたいと思います。

8月7日(水)
イギリスに到着。ピートとリンダが空港まで迎えに来てくれて再会した。感激!これから住む家に連れて行ってくれるとの事。どんな感じだろうと胸を躍らせ、約1時間の道のりを走った。なかなか英語が聞き取れなくて大変だったが、なんとか慣れてきた。
借りる家に到着。早速、大家さんのキースさんが出迎えてくれた。挨拶をかわし、家の中を案内してもらい、説明を受けた。洗面台の上の換気扇からは雨漏りがするらしいので、注意してとの事だった。早く直してくれぇ!
鍵を受け取ったあと、ピート夫妻と夕食しに行った。以前も行ったことのある、イタリアンレストラン。パスタとビールを頼み、久しぶりの再会をお互いに喜んだ。特にリンダは、自分の子供のように思ってくれているようだ。その後、テスコ(スーパーマーケット)に買い物に行き、必要最低限のものを購入。朝のサンドイッチも買った。ピートには、朝からサンドイッチを食べるのか?と驚かれた。イギリス人は、朝に何食べるの?
夜中12時過ぎに帰宅。シャワーを浴びて寝た。バスタブがないではないか!今になって気づいた。


8月8日(木)
9時にピートが迎えに来てくれた。道を丁寧に教えてくれた。仕事場に着くと早速自分の作業するスペースを作るように言われた。AC100Vの電源も用意してくれていて、カスタムで作ってくれたらしい。ありがたい。2個作ったので、ひとつは自宅用にとのことだ。さらにありがたい。すぐ入ったところには、ポールマッカートニーのラックが置いてあって、これも早く仕上げないといけないと、言っていた。むむ、すごすぎる。作業台の上には、CE-1を改造した私分のラックユニットが置いてあって、長く待っただろう!とピート。待ってました。ステレオで鳴らすのが最高なんだと言うことで、ジャズコーラスの120とマーシャル1959とピービーのキャビで鳴らした。本当はまったく同じアンプ2台で鳴らすのが最高とのこと。それはそうだ。コーラスでは、ステレオで鳴らすのが最高!ビブラートは、モノにしたほうが良かった。エフェクトのON/OFFはバイパススイッチがついている。うーん至れりつくせり。写真を撮り記録に残した。
次は、送った荷物の荷解きをし、PMS-16U(MIDIコントローラーの事)のセッティングをした。コンピューターを使ってのソフトフェアアップデートのデモをし説明をする。
早速、PMS-16Uの評価を始めた。メタルワークとディスプレイの認識度が非常に良くなったと誉められた。回路的には問題点をあげられた。外部接続のケーブルが断線したり、ショートした場合、大丈夫かどうか?という内容である。ショートした場合、内部の集合抵抗の47Ωはおそらくもたいないであろう。いろいろ検討した結果、ポリスイッチがいいのではないかということになった。温度特性と応答時間が問題なので、それを確認してからに進めようということになった。まだいろいろと指摘がありそうな気配だ。

(つづく)

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楽器の位相について(7) 〜アンプの逆相ついて〜 [技術]

今回はアンプの逆相ついてについてです。

ここまで、お付き合いしていただいた読者の皆様は、位相が重要な音作りの一つであることを感じていただいていると思います。現在の状態が正相なのか、逆相なのか、基準を持っていた方が良いですよね。
基準を持つ上で、困る存在があります。チャンネルによって異なる位相を持つアンプです。チャンネル1は正相、チャンネル2は逆相、チャンネル3は正相、など、、、、チャンネル間で位相が異なる場合が多々あります。位相を統一したい場合には、位相を逆相にするための機器が必要となります。チャンネル切り替えとセットで、位相を変える機器のコントロールが必要となるわけです。このように困った状況を解決するために、ARC-4 (フリーザトーン製のスイッチャー)を開発し発売しました。売り込みっぽくなってしまうようで恐縮ですが、ARC-4は位相切り替えをプリセットごとに設定できるようになっています。アンプの位相が変わった場合でも、逆相機能をONにして位相を反転させ、それをプリセット毎に覚えさせることができます。おそらく、位相をコントロールできる機能を持つスイッチャーは、世界でもこのARC-4だけだと思います。位相のコントロールは非常に重要で音作りに有効なので、 ARC-4から位相切替機能を抜き出した製品を現在開発中です。できるだけ小型にして使いやすい製品に仕上げたいと思っています。

話が少しそれてしまいましたので、アンプの位相の話に戻ります。位相を説明する上で、真空管(チューブ)アンプを例に説明するのがわかりやすいと思いましたので、ネット上にアップされていた、あるチューブアンプの回路図を元に、なぜ正相と逆相のチャンネルが生まれてしまうのか、探ってみたいと思います。


まず、前回のブログでご紹介しました、真空管の回路を思い出してください。信号を取り出す場所によって、信号の位相が変わります。同位相(正相)で出力する場合と、逆相で出力する場合がありました。
上側の回路③は、主にインピーダンスを下げる回路です。下の回路④は主にゲインを上げるために使われる回路です。

IMG_2522.jpg

では、具体的にアンプの回路を見て見ましょう。パッとみると様々なパーツが接続されていますので、難しそうに見えますが、実は簡単です(笑)22, 23歳くらいの時だったと思います。回路の勉強をしている際、先輩にこう言われました。
「コンデンサーは、信号の周波数によってインピーダンス(抵抗)が変わる性質のものだから、コンデンサーの記号を抵抗の記号に置き換えて、抵抗として回路を書き直してみると理解しやすいよ。」
そのあと、
「コンデンサーを抵抗に書き換えると、ほとんど抵抗ばかりの回路になってしまうから、あとは直列に繋がっている抵抗や並列に繋がっている抵抗は、1本にまとめてしまうと、回路としてはものすごくシンプルなものになる。」
と教わりました。電気回路を分かりやすくするために、有効なアドバイスだったと思います。もしご興味がある方は、是非やってみてください。

アンプ回路.jpg

(上の図をクリックすると大きなサイズの回路図を見る事ができます)
ざっと、回路についてご説明いたします。回路図の左側が信号の入力です。電気回路は、左側から右側に信号が流れるように回路が書かれています。Inputと書かれたジャックのマークにギターからの信号が入力され、その信号が回路に流れて行きます。
・クリーンチャンネルの信号は、「黄緑の矢印」
・ドライブチャンネルの信号は、「紫の矢印」
に分けて信号の流れを示しました。途中で信号が分かれて、異なるそれぞれの回路を通過します。その後、信号は合流します。
クリーンチャンネル側から、幾つのチューブ回路を通過したか見て行きましょう。
入力信号 > 逆① > 逆② > 逆⑤の手前で合流
逆相の回路を2つ通過しましたので、正相の状態で、信号が合流するポイントへ入ります。

次にドライブチャンネル側を見て行きます。
入力信号 > 逆① > 逆③ > 逆④ > 逆⑤の手前で合流
逆相の回路を3つ通過しましたので、逆相の状態で、信号が合流するポイントへ入ります。
ドライブチャンネルは、信号を歪ませるために、通過するチューブ回路がクリーン側より1つ多くなっています。このため逆相となる回路を奇数回通過することになり、逆相となって合流ポイントに入ることになったわけです。
結果的にこの回路では、クリーンチャンネルとドライブチャンネルは、位相が異なって出力されます。

楽器のアンプに頻繁に使用される代表的なプリ管(プリチューブ)は、12AX7(ECC83)です。この中には2回路分入っています。アンプの設計者は、サウンドの事だけでなく、できる限り効率良く、合理的にアンプを設計したいと考えます。真空管の数を減らすことができれば、電源トランスの容量を下げることができるため、トランスのサイズや重量を小さくすることができます。またアンプのスペースも小さくすることができます。コスト削減に直接、繋がります。逆相のチャンネルを正相に戻すためには、チューブ回路を1つ追加する必要がありますので、合理化とは逆の方向に進むことになります。私は、これが1つのネックになっていると考えています。
また、もう一つ大きな要素はサウンドです。私も以前、チューブアンプの設計をしていたので分かりますが、1つの真空管が増えることによって、サウンドキャラクターが想像以上に変化します。真空管の数、回路の数が増えれば増えるほど、音の「腰」「芯の強さ」が弱まり、「音が遠く」なるように感じました。もちろん比較して見ないと分からないくらいの差の場合もありましたが、設計者としてはより良いサウンドを提供したいと思っているわけです。位相のことはちょっと横に置いておいて、アンプ自体のサウンドを重視!という気持ちが、痛いほど分かります。私のようなシステム設計をする立場の技術者としては、アンプ設計者の気持ちを汲み取り、弱点は補い、より良いサウンドシステムを組み上げる事が重要だと思っています。私が位相切替機能付きのARC-4を開発したり、位相切替機器の開発をしているのも、ご理解いただけるのではないかと思います。

チャンネル毎に位相が異なるから、使えないとか否定的な方向では無く、気に入ったサウンドが出るアンプの弱点も受け入れて、その弱点を補いながら自分独自のシステムを構築していくのも楽しい事だと思います。このブログを参考にしていただけると幸いです。

位相のシリーズは、今回で一旦終了です。また、新たな情報が出てきましたら、ご案内したいと思います。

次回からは、私がイギリス在住の技術者Pete Cornishの元で修行していた時に書いていた日記をご紹介しようと思います。すでに18年近く前の話ですが、これから技術者を目指すための方にもお役に立つ内容だと思いますので、是非楽しみにしていてください。

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楽器の位相について(6) 〜エフェクターの逆相ついて〜 [技術]

今回はエフェクターの逆相ついてについてです。

エフェクターの中で、逆相(逆位相)になることで良く知られているものは、ワウやコンプ、ブースターなどがあります。でもちょっと待ってください。全てのワウ、コンプ、ブースターが逆相になるわけではありません。回路によって異なります。正相(入力した信号と同位相)で出力する物も存在します。
例えば、Wahで有名なJenのCry Babyやコンプで有名なMXRのDynaCompは逆相で出力します。回路の規模を少しでも小さくするために(小型化するために)、逆相出力のままにしたのか、、、、、それとも正相のタイプと逆相のタイプを比較して、逆相のタイプを選択したのか、、、、、。叶うなら当時の設計者に聞いてみたい内容です。

楽器の位相について(2) 〜位相と周波数〜にも書きましたが、周波数の高い信号は、波長が短いため位相の影響を受けにくくなります。ギターやベースに当てはめると、高い音程(フレットのハイポジションの音など)は位相の影響を受けにくいということになります。ギターのソロプレイやカッティングなどは、位相の問題が起こりにくいわけです。かといって影響が無いわけではありません。ワウの位相を反転して、バンドサウンドの中で、正相と逆相のサウンドを比較してみると、明らかに音色(聞こえ方)が変わります。ここまで来ると好みの世界とも言えます。ワウペダルを他の種類に変える方法もありますが、位相をひっくり返してみるのも、音作りの手法の一つです。

一方、ギターの5、6弦、やベースなど、音程の低い音は、位相の影響を受けやすくなります。例えばヘビーなギターのリフとベースの音が逆相だった場合、音の出るタイミングによって、音が出たり引っ込んだりを繰り返すため、キレの悪い演奏になってしまいます。私には演奏が変わってしまったように聞こえます。ドラムとベースの場合、例えばキックとベースのリズムが周波数の半周期分、ズレた方が、それぞれの音が聞こえやすくなるという現象が現れてもおかしくありません。低音域を扱うベースは、ドラムとの位相と密接な関係があり、さらにそれは音を出すタイミングで変化するものなので、本当に難しい楽器なんだろうなと思います。私はバンドでベースを弾いたことがないので、どれほど難しいか分かってません(汗)ドラムとの位相関係を複雑にしないためにも、ベースの位相は、常に変化しないのが良いと考えています。

ここで、少し電気的なお話を。エフェクターは電気回路で構成されています。位相を反転させるエフェクターが存在するのも内部に電気回路が入っているからです。ネットを調べると、エフェクターの回路図が沢山見つかりますので、位相が正相で出力する回路なのか、逆相で出力する回路なのか調べてみるのも面白いです。

バイアス回路などを省いて簡素化した、トランジスタと真空管の回路を図に書きました。それぞれ入力信号に対して、どのような位相で出力するのかも書きましたのでご覧ください。信号を取り出す場所によって、信号の位相が変わります。

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トランジスタや真空管の基本動作として、
・ゲインを上げる(音量を上げる)動作をさせたい時は、位相が反転する回路を使用します。(図2と図4)

・信号のインピーダンスを下げる動作をさせたい時は、位相が同相(正相)になる回路を使用します。(図1と図3)

信号のインピーダンスを下げたい場合というとバッファー回路が頭に浮かぶと思います。そうです、バッファー回路をトランジスタや真空管で作る時は、位相反転せずに作ることができます。ブースターやオーバードライブなど、ゲインやレベルを上げたい場合は、位相が反転する回路を使用する必要があるので、どうしても位相が反転してしまうのです。ちなみに、位相が反転する回路が2個(もしくは偶数倍)あると、位相は元の位相(正相)に戻ります。設計者の思想によって、位相をどのように捉えているか、想像するのも楽しいです。特に私は1960年代に生まれたエフェクターの回路を見るたびに、設計者は何を考えながら設計図を書き、パーツを決めて行ったんだろう、と考えます。回路図は設計者にとって、絵画のようであったり、小説のようであったりします。貴重な財産です。

3月27日に、フリーザトーンからPHASE ANALYZERを発売いたしました。エフェクターやアンプの位相(極性)を簡単に測定することができます。ご興味ございましたら、チェックしてみていただけると幸いです。バッテリー駆動もできますので便利です。リハーサルスタジオで使っているアンプの位相をチェックしてみても良いですね。いつも使用しているギターアンプとベースアンプ、両方のアンプの位相を知るのは重要だと思います。

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次回は、アンプの逆相についてお話ししようと思います。
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楽器の位相について(5) 〜エフェクターと測定方法について〜 [技術]

今回はエフェクターと測定方法についてです。

エフェクターは本当に様々で、使用されている電気回路によって位相も変化します。
測定の手法が異なることで、話が食い違う場合も出てくるかもしれませんので、測定方法について少しご説明いたします。エフェクターの位相については、測定する場合、大きく分けて2つあります。

(1) 時間軸を考慮しないで、波形の向き(極性:ポラリティ)を測定する場合
電気的にプラス側からスタートするテスト信号をエフェクターに入力します。エフェクターからプラス側からスタートする波形が出力すれば、位相は正相が出力すると言えます。この場合、極性(ポラリティ)はプラス(+)側です。
例え波形が出力するタイミングが遅れたとしても、プラス側からスタートする波形が出力すれば、エフェクターとしては、同位相の信号を出力するわけですので、正相の信号を出力したことになります。
あくまで信号の波形の向きを調べていて、時間軸は無視しています。そのため、極性(ポラリティ)がプラス、もしくはマイナスという言い方をします。
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(2)時間軸を基準にした位相測定
時間軸を基準に位相を測定する場合は、入力した信号と出力した信号を同時間で比較し、位相を測定します。一番わかりやすい例としては、テスト信号の山の部分と、エフェクターから出力する波形の山が一致すれば、正相で出力していると判断します。逆に、テスト信号の山の部分と、エフェクターから出力する波形の谷が一致している場合は、逆相で出力していると判断します。

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時間軸を基準に、位相を測定する際に困ることがあります。テスト信号の山の頂点とエフェクターから出力する波形の山の頂点がピッタリ一致せず、ほとんどの場合、少しずれているからです。例えば、FUZZペダルは、微弱な信号でも大きく増幅するため入力波形が崩れてしまいます。元々あった頂点の場所は、どこにあるのかよく分からなくなってしまいます。このような場合は、FUZZのGAINを下げ、増幅率を下げて測定してみます。テスト波形に形状が近くなれば近くなるほど、位相の測定はし易くなります。

時間軸を基準にすると位相の測定ができないエフェクターもあります。
例えばコーラスやフェイザーのような、常時位相を変化させているエフェクターです。ある時は正相、ある時は逆相、ある時は90度位相ずれなど、掴みどころがありません(笑)
時間軸を基準にして位相が測定できないコーラスやフェイザーですが、前述の極性は測ることができます。

そして信号処理をデジタルで行なっているエフェクターも、位相の測定に困るエフェクターです。AD/ADコンバーターを経由する時間や、演算処理の時間が必要なので、デジタルエフェクターでは音の遅延が発生します。時間軸を基準とすると、入力信号に対して位相がずれた状態になります。デジタルエフェクターも極性は測ることができます。

極性がプラスのエフェクターでも遅延が発生していると、結果として位相はどうなるの?という疑問が湧くと思います。入力信号に対して、出力信号が遅延しているということは、位相がずれているということになりますが、どれくらい遅延時間が発生しているのかによって、どれくらい位相がずれるのかが変わります。入力信号と、デジタルエフェクターを通過した音(例えば、デジタルEQでほんの少しエフェクト処理した信号など)をミックスしてみましょう。どんな音になるか試して見るのも面白いと思います。ProToolsなどをお持ちの方は、何サンプルくらいエフェクト音が遅延するのかチェックして見るのも良いと思います。

次回は、エフェクターの逆相についてお話ししようとお思います。
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楽器の位相について(4) 〜ギターやベースについて補足と楽器用アンプ〜 [技術]

今回は楽器用アンプの位相についてです。

本題に入る前に少し、前回の補足的なお話を。
前回、ギターやベースの位相についてお話ししました。楽器自体や奏法で、出力する信号が正相(極性としては電気的にプラス側から信号がスタート)なのか、逆相(電気的にマイナス側から信号がスタート)なのか変化しますとお伝えしましたが、やはり自分の楽器がどちらなのか気になる方もいらっしゃると思います。その場合は、ProToolsなどに直接、ギターやベースの波形を録音して取り込んでみてください。そして波形を拡大して自分が弾いた音がプラス側から振れているのか、逆にマイナス側から振れているのかチェックしてみてください。弦のひっぱり方(ピッキングによって)波形の立ち上がりが変化します。非常に興味深いと思いますので、是非、録音した波形が確認できるツールをお持ちの方はやってみてください。弦を上下(天地方向)に揺らすだけでなく、左右に揺らした時の波形もどうなるか、円を描くように揺らした時どうなるか、、、なども実験して見ると面白いと思います。
リア側のピックアップで弦を鳴らした時と、フロント側で鳴らした時の違い。
Jazz Bassで鳴らし時とPrecision Bassで鳴らしたときの違い。
ピック弾きと指弾きでの違いなどなど、、、、比べて見ると面白い内容が沢山あると思います。
このギターやこのベースで、こんな風に弾くと、信号としてこのように出力するんだな、、、ということが分かっていると、演奏に応用が効くこともあると思います。

さて今日の本題に入りたいと思います。
エレクトリックギターやエレクトリックベース用のアンプは、真空管式の物からデジタル技術を駆使した物まで多種多様です。楽器用のアンプは、位相という面から見ると、そこにとらわれることなく製作されています。入力した信号に対して、同じ位相(正位相や正相とも言う)で出力するアンプもありますし、入力信号に対して逆の位相(逆位相や逆相とも言う)で出力するアンプもあります。ギターアンプで多々見られますが、使用するチャンネルによって、正相であったり逆相であったりします。ベースアンプでも逆相で出力する物もあります。練習スタジオに置いてあるアンプが変わるだけで、位相が変わると言うこともあり得るわけです。これは困った状況です。

ライブやレコーディングの時、エンジニアの方は、ドラムのキックの音に対してベースの音が正相になるように位相を決めます。マイクやDIを通した音は、逆相スイッチで簡単に位相を逆にすることができますし、マイクの位置を動かすことで、位相を合わせることができます。デジタルミキサーを使用している場合は、入力波形を少し遅らせることで調整する場合もあります。
ところがステージやリハーサルスタジオ内で演奏される楽器の位相は、用意されている楽器の位相がそのまま出力していますので、一般的に位相を変えることができません。

実際にあった例をご紹介いたします。あるボーカルの方が、リハーサルに用意した新しいアンプは、素晴らしいサウンドを持ったアンプでした。音の調整が終わって、バンド全体のリハーサルが始まると、そのサウンドは聞こえにくくなり、音量を上げてもトーンの調整をしても、単体で弾いた時のパンチのあるサウンドを再現することができませんでした。アンプの故障?なのか。しかしアンプの動作は正常で、その日は、原因不明のままリハーサルが終了しました。
その後、スタッフの方が持っていたA/B BOXに逆相スイッチが付いていることに気付き、そのA/B BOXを通してからアンプを鳴らしました。逆位相にした途端、バンド演奏の中で、素晴らしいアンプサウンドが聞こえるようになったのです。結論をいうと、このギターアンプの位相は、ベースアンプの位相と逆位相の関係でした。ベースアンプの近くに、このギターアンプが置かれていたため、音を打ち消しあう関係となっていた訳です。リハーサルスタジオで、このような経験をされた事はないでしょうか?このアンプ「音が抜けないなぁ」と感じた場合、もしかすると位相の問題かもしれません。

このような実体験を元に、逆相にする機材の必要性を感じました。せっかく気に入った機材が、位相の関係で良くなかったという結果になってしまうのは、本当に残念な事だと思いますので。

ここで少しデジタルアンプのお話をしたいと思います。デジタル技術の飛躍的な発展で、アンプの世界もデジタル製品が多くなりました。デジタルエフェクターも同様ですが、デジタル製品を信号が通過するには時間がかかります。製品によってその時間は変化しますが、数msec遅れるものが多いようです。これは、アナログ信号をデジタル信号に変換し、そのデジタル信号を演算処理(数字上で加工する)するために時間がかかるからです。デジタルの処理速度は、ディバイスの進化とともにどんどん早くなっていて、処理速度が早くなれば音の遅れも少なくなります。今後も更に処理速度が上がって行くと思いますので、どこまで早くなるのか楽しみです。

次回は、エフェクターの位相についてお話ししようとお思います。
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楽器の位相について(3) 〜ギターやベース〜 [技術]

今回はギターやベースの位相についてです。

皆様がご存知の通りエレクトリックギターやエレクトリックベースには、コイルと磁石を使ったピックアップが、弦の下にマウントされています。磁性体の弦が揺れることによって微小ながらピックアップに電気信号が流れ、この電気信号がシールドを伝って、接続されたエフェクターやアンプに流れます。

ギターやベースのピックアップに使用されている磁石には、ご存知の通り、S極とN極があります。ピックアップに使われている磁石のS極とN極を入れ替えると、電流の流れる方向が逆になります。
また、コイルとして巻かれるワイヤーにも、「巻く向き」があります。ワイヤーを巻く向きを変えても電流の流れる方向が逆になります。

ギターやベースの製造メーカーや、ピックアップ製造メーカーは、これら磁石の向きやコイルの極性を管理した上で製造しているわけです。ピックアップをご自身で交換した方は、ご存知だと思いますが、ピックアップから出ているワイヤーの被覆には色が付いていて、ピックアップの極性を間違って逆に配線しないように工夫しています。ハムバッカータイプのピックアップは、最初から一芯シールド線がピックアップから出ていて、配線し易くなっているものも多数あります。

少し長々と説明してしまいましたが、ピックアップは、磁石の極性やコイルの極性を変えることで、電流の流れる方向が変わる特性を持っています。ということは、ピックアップにも位相(極性)があるということになります。

先にピックアップ側から説明しましたが、今度はギターやベースの弦側からご説明します。
ピックアップの上を弦が行ったり来たりすることで、微弱な電流が生じコイルに電流が流れるわけですが、弦がピックアップに対して、下に動いた時と上に動いた時では、電流の流れる向きが異なります。ピックアップに対して弦が上下に振動することで、電流の流れる向きが変化する信号が生まれます。
もうお気付きだと思いますが、弦をピックで弾く方向を変化させるだけで、信号の位相(極性)が変わります。
ピッキングが音色を変化させる重要な要素の一つですが、ピッキングによって位相も変化させることができるのです。

こうなってくると、ギターやベースの位相が正位相で出力するのか、逆相で出力するのか分からなくなってきますよね。これは私の個人的な見解ですが、ギターやベースから出力するのは、どのような位相であっても良いと思います。演奏家は、耳を使って、ピックアップを選択し、ピッキング方法を変化させ、良いトーンを得られるように工夫します。位相は使用している楽器、奏法とも密接な関係があります。

次回は、楽器用アンプの位相についてお話ししようとお思います。
タグ:位相 楽器
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楽器の位相について(2) 〜位相と周波数〜 [技術]

今回は位相と周波数(音の高低)についてです。

周波数の話をする前に、位相の基本的な現象について少し触れます。
・同じ音が2つ、同じ位相(同位相)で出ているとき、音の音量が上がります。
・同じ音が2つ、片側は正相、片側が逆相で出ているとき、音量が下がります。
位相という言葉を使うと分かりにくいと思いますので、別の例えで言い換えてみます。

海や大きな湖などで見ることができる波を思い浮かべてみてください。波と波が重なる時、大きく山なりに盛り上がる場所と、逆に谷となって沈みこむ場所や平になる場所があります。山なりの場所は、同相(この場合は正相と正相)が重なった場所。平らになった場所は正相と逆相が足されて、打ち消しあった場所。谷となった場所は、逆相同士が重なった場所。このように考えると分かりやすいのではないかと思います。

波でも想像しにくい場合は、少し飛躍してしまいますが、ブランコを想像してみてください。ブランコが進もうとする方向に力を加えると(乗っている人の背中を押すと)進もうとする方向にさらに勢いがつきます。これが同相の2つの音が加わった場合のイメージです。
ブランコが進もうとする方向と逆に引っ張ろうとしたり、地面を足ですってブレーキをかけると、ブランコのスピードが落ちます。これがある音(正相)に対して逆相の音が加わった時のイメージです。

次に「周波数」という言葉を絡めてお話を進めます。周波数という言葉に馴染みが無い方もいらっしゃるかもしれません。音の高低を表す際に使用する言葉ですが、「周波数が高い」とは音が高いという意味で「周波数が低い」とは音が低いという意味です。(大雑把な言い方ですが)ピッチが高い、ピッチが低いと言い換えることもできます。

位相を分かりにくく複雑にする原因の一つが、この「周波数」によって変わる「波長」です。
波長は言葉の通り波の長さです。例えば、ギターの基準音の440Hzは、波の長さ(1周期)が約77cmです。(音速340m/Sとして440Hzでは、340/440=約77cmなので波長が77cm) ということは、77cmごとに波の「山」があり、山と山のちょうど半分の所に「谷」が発生するということになります。この「山」を基準とすると、谷の部分が「逆位相(逆相)」となります。人間の耳に聞こえる低い周波数の限界が20Hzと言われていますが、20Hzの信号を伝えるためには、約17mの距離が必要となります。17mって凄く長いですよね?(笑)

さらにさらに困るのが、低音域ほど空気を伝わるスピードが遅くなるという事実です。広い場所で、「せーの!」で金属の高い音と、バスドラの低い音を「同時」に出したとします。かなり離れた場所で音を聞いていたとすると金属の音が早く聞こえ、そのあとにバスドラの低い音が聞こえるわけです。

波長が長く、伝わるスピードが遅い低音域ほど、扱いにくいという訳です。さらに波長が長いため、人間の耳には、低い音であればあるほど、どこから音が出ているのか把握しずらくなります。この特性を利用したのがサブウーファーです。サブウーファーの設置場所は思ったほど厳密ではありませんし、一般的な部屋で使用するサブウーファーは1個で、ステレオペアで無いのはこのためです。

前回、正相と逆相の話をいたしましたが、音が低い音ほど波長が長いため逆相の影響を受けやすくなります。例えば、ドラムのキックの音や、ベースの音、ギターの巻弦側の低音域などが影響を受けやすくなります。逆に、音が高い音ほど逆相の影響を受けにくくなります。ギターソロでハイポジションをプレイしている時などは逆相の影響を受けにくいということになります。

・低音域は、位相の影響を受けやすい。
・高音域は、位相の影響を受けにくい。
位相を理解するために、周波数(波長)についても考慮が必要と感じて頂ければ幸いです。

次回は、ギターやベースの位相についてお話ししようとお思います。


タグ:位相
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