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イギリス滞在記(4) [音楽]

8月13日(火)

ピートからダイオードチェッカーをもらった。かわりにピートには半田吸い取り器のセットをあげることになっている。

今日はケーブルの製作をじっくりと習った。半田付け作業がメインである。半田付けはスムースでストレスがなくというのが基本だとのこと。まずワイヤのストリップが難しい。いままで加工したことがない種類のケーブル。2芯シールド線である。外皮がラバーで、耐熱になっていて、その内部が黒コットン、紙、シールド線となっていてさらに内部はいろいろ入っている。さらに内部の線材は、ワイヤのように弾力がある。むずかしー!
なんとかすべて半田付けが終わった。特にシールド線の処理が難しい。処理したあと、一本の線のように見えるように処理するのがよいとのこと。外皮を少しめくりその中からシールド線を解き、いったん後ろにまわして一本に束ねる。
またシールド線を途中で断線したまま使用しようとすると、シールド線が回りにタッチしたりして、ノイズを発する可能性があると言っていた。ピートが使用しているプラグはノイトリックが多いのだが、留意点がいくつかあった。まず半田付けするときは、予備半田を必ずすること。半田付けをした後、ストレスがかかってないか、ストレートに付いているかを確認する。またシールド線とホットの間が近くならないようにすることも大事とのこと。空気が一番良い、絶縁材だと言っていた。そりゃそうだ。チップから半田付けし、次にシールドを半田付けする。
ヒートシュリンクのときは、必ずセンターからシュリンクをはじめ、外側にシュリンクしないと中央に空気が入ってしまう可能性があるからとのこと。

ポールマッカートニーのルーティングユニットは1989年に作られ1992年に改造された。入力回路に簿いゲインボリュームがあって、これをロックタイプに変更した。ロックタイプのコレットは別ピースであった。
ボリュームを使うときは、必ず同じロットを使用し、2 INPUT等、セットの場合は、かならず隣り合ったものを使用すること。これで精度が上がる。
ちなみにリニアのボリュームはセンター位置が6dBダウンでLOGテーパの物はセンターが大体20dBから15dBダウンである。

基板が大きくなると機材がゆれたとき、曲がりを吸収できない。また基板自体が半田付けして曲がってしまうので、ピートは必ず小さな基板で組み上げるようにしている。各ケーブルはかならずループ(たるみ)をつくり振動に耐えうるように考えている。
現在は、ボリュームのターミナルやヒューズホルダーにもスリーブをつけるようにしている。これは絶縁用。
ラック内部の配線材に使用しているケーブルの外皮は、PBCインソレーションといわれているもので、いくつか問題がある。本当は、ラバーのものが良いらしいが、高価なので内部の配線には、このPBCタイプを使用しているとのこと。欠点としては下記の通り。

1. 高温で溶ける。(ヒートシュリンクは使用できない)
2. 低温で硬くなる。
3. 経年変化で硬くなっている時がある。

cable.jpg
こちらがポールマッカートニー向けに製作したワイヤレスケーブル



8月14日(水)

今日は、ポールマッカートニーのシステムを仕上げる日。ユニットやワイヤレスのテストを行なった。自分が作ったワイヤレス用のケーブルをすべてテスターと音出しでチェック。問題ないことを確認。ワイヤレスも外に出て、約50m届くことを確認。すべての入力にオシレーターからの信号を入れて、エフェクトON/OFF時や入力によるレベルの違いを調整し、ユニティに設定。必ずオシレーターからの信号をレベル計で測定して確認し、さらに音を出して再確認すること!ワイヤレスのチェック時もケーブルをゆすって問題がないか確認した。
ポールマッカートニーの使用するワイヤレスはSURE製で非常にすばらしいものである。送信機は、ダイキャストでしっかりしていて、9Vの電池を使用せず単3乾電2本での駆動になっている。ピートは、すばらしい設計だと言っていた。電池は、セルがすくない方が、インピーダンスが低いので、電流を取り出せる能力が大きい。9V電池は、いくつもの小さなセルがシリーズに入っていて、インピーダンスが高いそうだ。単3電池は、セルが2個くらいなのでインピーダンスが非常に低く良いそうだが、エフェクターでは9Vが標準になってしまっているので、どうしようもないといっていた。
送信機の電源をOn/Offしてもノイズがまったく出ないのですばらしいと言ったら、プロフェッショナルなワイヤレスはノイズが出ないのだと。そらからSUREのワイヤレスは、送信機からのシグナルが低くなっても、変なノイズを出さないで、ミュートするようになっているらしい。

ワイヤレスが故障したり、ギターを交換する必要がステージでは、いくらでもある。よって、すぐにギターを取り替えて演奏を続けられるようにする必要がある。ピートのやっている方法は、スイッチでA/B切り替えを行い、すぐにギターをスイッチできる方法と、フロントパネルにギターインプットを配置し、ジャックのスイッチを使用して、プラグを指すと直ちに切り替わるようにする方法。以上の2つがある。

ワイヤレスのレベルとギター(ケーブル)のレベルは、必ず同じレベルである必要がある。ワイヤレスのシステムがギターを強く弾いてもひずまないようにレベルを設定し、その後それにケーブル側のギターレベルを合わせる。

LEADという表記は、混乱のもとになるので、イギリスでは使わないらしい。ローディが混乱する可能性があるとのこと。LEADには、いろんな意味があるからだそうだ。ポールのラックには、DISTORTIONと表記されていた。SUTUDIO22ブギーのアンプを使用しているそうだ。

ラックの内容は、ギターインプットとベースインプットがあって、切り替えることができる。ギター側には、CE-2のラックマウントタイプとSD-1のラックマウントタイプ。今回は、P-2 FUZZのラックマウント版を追加した。

引き出しには、ピックやおそらくファンから投げられたベアのぬいぐるみ。ツアー用のセットリスト。それから驚くべきことにポールの曲の詩集が特別にMPL(ポールの会社)によって作成されていて、その冊子が入っていた。

ポールのストロボチューナーの入力ジャックが壊れていたので、テストだといわれ、どうやったら、壊れにくいように改造できるか?とピートに言われた。機構的にまずい設計で、フロントのジャック(モールド)2本だけで基板がとまっていた。今日は時間がなくなったので、明日にすることになった。

入力インピーダンスの重要性について習った。ピートがなぜTrue Bypassにしないかのレクチャーを受けた。エフェクターが2つや3つであれば、True Bypassもいいだろう。しかし、それ以上になったとき、ケーブルの長さの総合計は、相当なものになり、信号のロスは大きなものになる。これを考えないといけない。またTrue Bypassされた次につながるエフェクターがもしクライベイビーのように入力インピーダンスが低いものであれば、信号がどうなるか容易に想像がつく。通常は後ろに何がつながれるか、想定できないので、何がつながれても問題ないようにするのが一番良い。

ピートは、A/B比較できるダイキャストボックスをみせてくれた。これに、ピートのLINER BOOSTをつなぎ、音の比較を行なった。使用したアンプがJC120で入力インピーダンスが低いので、とくにLINER BOOSTを使用したときの効果を認識できた。コピーできるように、写真と回路図をとらせてもらった。また、ボリュームを絞ったときの高域の劣化を確認できた。パラボックスを間にいれて、バリアブル抵抗を途中につなぎ、抵抗値を変えながらそのロスがどれくらいあるかを耳で確認できた。
重要なポイントは、高域が失われると、これを補正するためにアンプのトレブルもどんどんあがり、結果的にノイズが多いサウンドになってしまうということであった。ノイズを減らすためには、アンプでトレブルを上げる必要がないように、ギターの信号のロスを極力減らすということが重要とのことであった。
LINER BOOSTの入力インピーダンスは1Mである。多くのチューブアンプの入力インピーダンスが1MΩなので、それにあわせたらしい。それがもっともナチュラルとのこと。
A/B比較用ボックスの製作用にスイッチを売ってもらった。価格は、GBP5.50。

入力インピーダンスを計測する方法を聞いた。ピートはそれを簡易化するための、計測器をカスタムで作っていた。ソースと測定する機材の間に可変抵抗を入れて、ちょうど-6dB下がる抵抗値をさがす。すると分圧比で「入力インピーダンス=可変抵抗値」がもとまる。ただ、FUZZのような信号をひずませコンプレスするタイプのものは、出力レベルが正確にでてこないので、入力側で測定するしかないが、入力インピーダンスが10MΩくらいあるプローブでモニターしないと正確に測定できない。日本に帰ったら、ステップタイプの可変抵抗器がいくらくらいか調べる。

JVCで私が設計していたデジタルアンプの話になって、スイッチング電源の話になった。イギリスではグランドが必ずあって、接地されているが日本はどうなっているのだという話だった。シャーシの電位が定まらないので、非常に問題だと言っていた。ノイズは、グランドに戻すものであるが、フローティングされていたら、シャーシが汚いままではないか?と不思議がっていた。たしかにその通り。

話の流れで、スイッチング電源を用いたラックエフェクターとハイゲインのエフェクターをつないだときに、すごいノイズが出たという話をした。ピートの経験では、あるフランジャーの内部クロックが垂れ流しだったため、そのあとにエコープレックスをつないだら、クロックの低域分周された信号がノイズとして出てきたと言っていた。

ポールマッカートニーのラックの仕事に戻る。システムの接続に使われているマルチコアのピンが曲がっていた。ダミープラグ(保護用)を付けないまま、使用していたようだ。ポールのシステムは、ペダルが2台つながるようになっていて、本人用とローディ用のペダルがある。それぞれ、チューナーがあり、スイッチもリンクして動作するようになっているので、1つのスイッチあたり4本の線が必要で、多ピンのケーブルが必要になってしまったと言っていた。最近はそれを避けるために、On/Off/Remoteのスイッチをつけるようにしたとのこと。

MIDIペダルの話。モーメンタリースイッチはITWのスイッチがベストらしい。クーラシェイカーのMIDIシステムは、このスイッチを使用しているらしい。壊すのが難しいくらい丈夫らしい。また、ピートはMIDIペダルもカスタムでケースをおこすので、スイッチとディスプレイとCPUボードが別のピースになっているのが有難いらしい。

今日は、内容の濃い一日だった!

(つづく)
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