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楽器の位相について(1) 〜プロローグ的〜 [技術]

2011年頃、位相について発生する現象や問題点について、少しブログに書きましたが、その後、位相についての話題が尻窄みになってしまいました。今年、PHASE ANALYZERという位相を簡単に判定できる測定ツールの開発が終わり、フリーザトーンから3月27日に発売となります。これをきっかけに、再び位相について話をしてみようと思います。お付き合いいただけると幸いです。

下記は、2011年に書き始めた位相についてのお話。合わせてお読みいただけると幸いです。
楽器の位相問題について(1)
楽器の位相問題について(2)

基本的に人間の耳は、位相に対して鈍感です。例えば、ギター単体の音を聞いて、この音が正相(正位相)だ、この音は逆相(逆位相)だ、と判断できる方は多くないでしょう。逆にある音と比較して、正相だ、逆相だと聞き分けることは比較的簡単です。音質比較と同様に、位相も比較すると分かりやすいわけです。

実は逆相の音は、様々なケースで利用されています。例えばイヤホンで音楽や映画の音声を聞いている時、後方から何かの音がなっているように聞こえる場合があります。これは逆相を利用している例です。

ギターのアンプメーカーで有名なFenderやMatchlessというブランドがありますが、逆相で出力するモデルやアンプチャンネルが多く、狙ったサウンドを優先して設計した結果、逆相を選択しているのではないかと思われます。試しに、逆位相のアンプのスピーカーのプラスとマイナスを入れ替えて接続し、音を鳴らしてみてください。私の主観になりますが、正相にした方が「ミッドに張り」があるサウンドに聞こえます。今までカッティングやアルペジオに向いているサウンドが、リフを弾くのに適した感じのサウンドになる、という感じでしょうか。表現が難しいのですが、イメージとしてそのような感じです。元々のサンドとは異なるサウンドに聞こえます。
(*位相を変えるために機材を間に挟むと、その機材のサウンドが加味されるため、音の比較では追加機材を使用せず、スピーカーのプラスとマイナスを入れ替えてサウンドチェックしました。)

20年以上前に、レコーディングエンジニアの方から聞いた話をご紹介しようと思います。
レコードが主流だった時代、レコードを作るためにはカッティングという工程が必要でした。複数のレコードを生産するための、元になるレコード盤を作る作業と思ってください。このカッティング作業をスムーズに行うためには、低音域の処理が非常に重要になると聞きました。レコードの溝を切るのがカッティング工程ですが、レコードの溝の幅は、最大幅が決まっています。幅の制限を越えると、隣の溝まではみ出て切ってしますから(笑)周波数が低く、振幅(レベル)が大きい信号ほど、深くさらに幅をとってカットする必要があります。マスタリングである程度の振幅調整がされたとしても、カッティングにマッチしているかどうかは分かりません。このため、フェアチャイルドのようなステレオコンプがカッティング作業で必要だったわけです。低音域のレベルを抑えて、溝の幅が規定値を超えないように押さえていたわけです。(昔のレコードを聞くと、低音域のレベルが、CDとは比べ物にならないくらい低いですよね。)
そして、低音域のレベルの話だけではなく、逆位相の話が続きます。レコードのカッティング作業では、逆位相の音をある一定以上のレベルで入れると、針飛びが生じるというのです。仮にカッティング作業で逆位相のサウンドが溝に加工できたとしても、一般のレコードプレーヤーでは針飛びすると聞きました。逆位相の音はレコード針の針飛びを引き起こす。 物理的な波形ではなく、データを使用したCDでは起こり得ない現象です。なぜ針飛びが発生するかは、専門の文献に譲るとして、逆位相をマスタリングされた音源に極力入れないと言うことが重要だったことが分かります。買ったレコードが針飛びして、曲が途中でスキップしてしまうのは困りますよねw

このようにレコードが主流だった時代、逆位相はNGだったわけです。
ところがCDが主流になると、皆様がご存知のように大きく変化が訪れます。レコードという物理的な制限からデータに移行し、制限が少なくなって行きます。

逆位相は基本NGだった時代、逆位相の楽器をどうやってレコーディングしていたの?と疑問に思う方も多いと思います。実は古いミキシングコンソールにも位相計が装備されていて位相が正相なのか逆相なのかわかるようになっていました。SSLには位相を見るためのリサージュと呼ばれる位相計が付いていますが、古いNEVEのようなレコーディング用コンソールには、針のメーターでセンターより右が正相、左が逆相となる位相計が付いていました。そしてミキサーのマイクプリアンプセクションには、位相を逆位相にするスイッチが必ず付いていました。レコード時代は耳を使って物理的にマイクの位置をずらしたり、マイクプリで位相を逆にしたりする事で位相をコントロールしていたわけです。

次回は、位相の話を難しくする周波数や距離との関係についてお話ししようと思います。

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